八 海 山
○ 山行ナンバー ５５８
○ １９９０年７月７日
久々の夜行日帰り登山を計画した。上越線にはすでに遠距離の夜行列車は廃止され、わずかにこの
季節限定の臨時急行「尾瀬・八海」が運行されていた。しかし七月に入ると尾瀬のシーズンも一段落の
為に列車は閑散としたもので、水上を過ぎると一両に三人の乗客だけになってしまった。これでは早晩
廃止になるだろう。六日町に下車したのは三パーティで五人のみ。一パーティは丹後山から荒沢岳へ、
もう一つは五十沢から巻機山という。早朝の駅にはタクシーは少なく、遠くまで行く彼等にタクシーの順
番を譲った為に、駅では二時間近く待ってやっと帰って来たタクシーに乗り込み、山口口の二合目に到
着した。ここで下山道として紹介される事の多い新開道を分けた。
計画したコースは山口からの屏風道というコース。鎖場が多く、修験の山、八海山を代表するコースと
思ったのだが、最近はそうでもなさそうだ。すぐに荒れた沢を渡るが、古くなった野猿の残骸が残ってい
た。右岸の杉林の緩い道を進み、生金沢を渡る。間もなく屏風沢が近付き、四合目の清滝に到着した。
ここで道は沢沿いのコースから離れ、急峻な尾根道に一変する。
尾根に取り付くと間もなく生金道コースが分岐するが、コースは閉鎖されているようだ。ここからの急峻
な尾根には鎖場が連続し、時折展望の開ける屏風沢の源頭は急な雪渓となって稜線に突き上げてい
る。鎖場の数はものの本によると実に二十五ヶ所とか。正味ほぼ2時間をかけてやっと鎖場が終わり、
緩くなった緑の笹の尾根の先に千本桧小屋が見えるようになった。やっと緊張が解けたが、小屋は未だ
頭上遠く、好天の日射を遮る樹木はすでにない。むしろ鎖場の急登よりもペースが落ち、清滝から三時
間余りを経てやっと稜線の小屋に到着した。この間、一人の登山者とも会う事はなかった。
夏休みにならないと小屋はオープンをしないのか、無人の小屋の前で一本を立て、荷を背負ったまま八
ッ峰の縦走に入った。一つの岩峰の高低差は20〜30メートルしかないものの、当然のように、登りも下
りも鎖場の連続になる。地蔵岳から始まる峰を進むと、1987年秋の越後駒から丹後山の山旅が思い起
こされる。
中ノ岳の右手にある印象的な双耳峰は兎岳だろうか。五峰を越えた五・六の鞍部には岩峰の西側を巻
いている迂回路からの道が上がってきている。それを下ると日・月の池という案内がある。コルで休憩
をすると、急激に縦走を続ける意欲が失われてしまった。何処が最高峰か等という事はどうでも良くな
り、日・月の池という案内に誘われ、尾根を外れてしまった。訪れた二つの池は、こんな荒々しい稜線の
真下に「こんな別天地が」という風情で佇んでいた。
千本桧小屋に向かう迂回路は、岩稜下のトラバース道になっている。さすがに数ヶ所の鎖場を交えた
道ではあるものの、難所という程ではなく、再び小屋に戻り着いた。下山路は新開道ではなく、安直に
ゴンドラを目指した。
普通の尾根道になった山道を下ると女人堂、地元の人とみられる六〜七名が昼食中。その中に入って
しまった為に、茄子の漬物やタマゴを喰えと歓待されてしまった。今日は千本桧の小屋に泊るという。
大休止の後、ゴンドラを目指してのんびりと歩きはじめる。気にしながら、ゴンドラを降りると、やはり交
通がない。バスは日曜のみで一日数本。今日は土曜日。こんな経営をしている国土計画にイヤミを言
いながら、山口のバス停を目指す。しかし、1時台のバスは行った後、次は3時20分。商店からタクシー
を頼むしかない。
上野23：48―六日町4：00〜5：50―山口・二合目6：10〜25清滝7：10六合目8：10〜20千本桧9：37〜55
八ッ峰・五六のコル10：25〜35千本桧11：00女人堂11：35〜12：00ゴンドラ上12：45〜13：00
ゴンドラ下13：10〜15山口13：45